烏帽子岳から船窪岳
2003.7.19〜21




7.18新宿−(夜行バス)−
 19信濃大町−高瀬ダム−ブナタテ−烏帽子テント場
 20烏帽子−不動岳−船窪岳−七倉テント場 
 21七倉テント場−七倉荘−信濃大町−(JR)−横浜
[単独 2泊3日 テント泊]

 <お花畑

7月20日海の日を挟んだ三連休を利用して北アルプスに行ってきました。例年ですと梅雨明け直後で好天が続くはずの時期ですが、今年はぐずついた天気が続きました。当初は水晶岳から赤牛岳を越える読売新道を目論んだのですが、この天候では雄大な展望を楽しみながらの稜線漫歩は期待できません。烏帽子でしばし思案の末、予備ルートとして練っていた船窪から七倉へのルートに変更しました。
もっとも、このルートも人気の無いルートです。二日目烏帽子から七倉のテント場まで、途中すれ違ったのは5パーティ15人位、同じ方向を辿ったのは単独行が一人。一番のハイシーズンでこの有様です。標高が低い割りにアップダウンが多く、少々マニアックなルートなのかもしれません。
このコースの見所は高山植物です。期待の四十八池はまだ雪の下でしたが、南沢岳や不動岳の砂礫にはコマクサが人知れず咲き誇っていました。雪田跡にはキヌガサソウやサンカヨウ。そして林床にはゴゼンタチバナやツマトリソウが絶えることなく登山道を飾ります。大規模なお花畑はありませんが、アップダウンの多い分だけ多様な植物が見られました。そのうえ登山者が少ないので、撮影に往来を気にする必要もありません。不動岳で雷鳥に出会えたこともあって、この3日間で400枚近く撮影しました。

山行記録
2003.7.19
信濃大町5:50・・・(タクシー)・・・高瀬ダム6:45−7:05登山口7:15−10:20三角点30−12:00烏帽子小屋−テント場
高瀬ダムから約20分でブナ立ての登山口に着いた。登山口も脇には最終水場があり、登山者の殆どはここで給水する。ブナ立ては裏銀座の玄関口で、大きなザックを背負った、いかにも山慣れた風体の人が多い。いくつかのパーティと抜きつ、抜かれつアルプス3急登を登ってゆく。小雨が断続的に降り続く生憎の空模様で、途中何度か雨宿りをしながら一向にペースは上がらない。昨年より30分遅れで烏帽子小屋に到着した。翌日、読売新道を狙うには、この先の野口五郎テント場まで更に3時間強、登らなければならない。一人旅のいい加減さで、まあコースを変更すればいいかあ〜。夜行バスの睡眠不足も手伝って今日の行動はここまでとし、早々にテントを設営してお昼寝タイム。ここは二重稜線に囲まれた風の緩衝地帯で、アオノツガザクラはじめ高山植物に彩られているお気入りのテン場です。
テント場の向うに野口五郎岳


2003.7.20
烏帽子テン場5:10−四十八池5:40−6:20南沢岳6:30−8:20不動岳8:30−11:15船窪岳(2459m)11:20−(雨宿り30分)−船窪岳12:50−船窪乗越13:15−14:30七倉テント場

テントの中で地図とにらめっこしながら、今日のコースは不動岳、船窪岳を経て七倉テント場に変更した。以前から気になっていたコースである。最終日は晴れたら針の木向かい、雨だったらそのまま七倉に下山しよう。
小屋の前で、登山者と言葉を交わしながら仕入れた天気予報によると、午前中はなんとかもちそうだが、船窪方面に向う登山者は他にいないらしい。やっぱり人気の無いコースのようで少々不安。
前烏帽子からコースを確認する。南沢岳、不動岳とも標高はここと同じ位だが、途中のアップダウンがきつそうだ。
南沢岳と不動岳(右)

四十八池の半分はまだ雪に埋もれていた。昨年8月末に訪問した時には、他ではすでに散ったような花々がまだ咲いていた。なるほど、遅くまで雪田が残っている分、他所より半月ほど開花が遅れるようだ。逆にこの時期にはサンカヨウやショウジョウバカマしか咲いていない。
意外にも先行者がいた。オバチャンが三脚を手に長靴を履いて危なっかしい足取りで歩いていた。挨拶して抜き去ったが、南沢岳の登りで見えなくなった。小屋に滞在して周囲を撮影していたのだろう。四十八池のお花畑、南沢岳のコマクサ、更に不動岳のコマクサ群生は一見の価値がある。
四十八池、後は南沢岳

南沢岳は南北に伸びる広い頂を持っており、三角点はその北峰にある。逆コースだったら昼寝でもしたい伸びやかな明るい雰囲気がある。
まだテント場を発って一時間強だが、振り返ると烏帽子はずいぶん遠くなってしまった。
眼下左手には黒部湖が見える。薬師から立山の稜線は雲に隠れ、山肌の雪渓が白く霞んでそれと判るだけ。
南沢岳から烏帽子

ここから不動岳へは南沢乗越まで大きく下って更に登り返す。濁り沢に面した右斜面は大きく崩壊しているが、やばそうな所には巻き道がつけられ不安箇所は無い。崩壊地に面した斜面は必ずと言って良いほどシナノキンバイ、テガタチドリ等が咲き乱れている。一方巻き道の林床にはゴゼンタチバナやカラマツソウ等が、更に不動岳直下は少し前まで雪田が残っていたようでショウジョウバカマやコイワカガミ等と、お花畑が次々と現れ、このコースで一番花の密度が濃いところだった。誰もいないので登山道にしゃがみ込んで写真を撮っていても文句を言われることも無い。
濁沢崩壊地。向うに高瀬ダム

不動岳直下のガラ場を詰めると、南北に伸びる細長い山頂の一角に出る。ハイマツ帯の向こうの砂礫帯に登山者が這いつくばっている。不審に思い近づくとコマクサの群生が広がっていた。蓮華岳とは比べようも無いが、より人目に触れないだけ高貴な感じがする。
今日初めて出会った登山者にこの先の様子を聞くと、良く整備されていると言う。ここ不動岳は距離的には烏帽子と七倉の中間地点にあたるが、難易度はこの先の方が上だった。
不動岳のコマクサ群生 針の木岳、蓮華岳(右) 雷鳥とご対面
ガイドブックによれば槍も見えるはずの不動岳山頂だが、依然として薄ぼんやりの景色しか望めない。針の木岳の稜線が近くに見えるが、そこ至るにはその手前に伸びる大きく八の字を描く効率の悪い稜線を辿らなければならない。
さて残り半分と腰を上げ、遭難碑のある大岩を廻り込んだあたりで足元からガサガサ雷鳥が飛び出した。断崖の岩の上でこちらを挑発してやがて姿を消した。雷鳥には何度か出会ったことがあるがそのつど後続の登山者に騒がれ、ろくな写真が残っていない。今回は自信作、壁紙コーナーにも展示しています。

さて次に目指すのは船窪岳です。右斜面は依然として崩壊地の連続ですが、コースの殆どは稜線から一段下がった黒部側に伸びる巻き道を辿り、たまにガレ場を通過するだけで不安はありません。標高が幾分低いのか、タテヤマウツボやイブキジャコウ等この山域では珍しい花がありました。
不動沢に面した崩壊地 黒部側の巻き道

船窪岳山頂は樹林に覆われ、何の変哲も無い頂です。木々が駆り払われた広場の一角では水さえ持参すればビバークも可能。
エアリアマップにある船窪岳山頂の道標には2459mの表記のみ。「船窪山頂」の道標は、ここから船窪乗越に連なる3連続ピークの一番乗越寄りの一つに立っている。これは付近を整備する船窪小屋のこだわりです。
2459mの道標 連続ピークの一つ
に船窪岳の表示

この二つの船窪岳の間がこのコース一番の難所でした。金属ロープや桟道、梯子が要所要所に設置され、きめ細かく手入れされた様子には頭が下がりますが、元々逃げ道の無いやせ尾根に付けられたコースです。特に30mを超す長いロープを使った下りはスリリングなものでした。
おまけに天気予報は大正解で、午後から断続的な雨模様です。残り僅かな道のりですがあせらずゆっくり雨宿り。
長〜いロープを使って下る

やっとこさ船窪乗越に辿りつきました。予想以上に明確な踏み跡が針の木谷に延びていました。ここから木々の合間に見え隠れする針の木岳を眺めながらラストスパートです。
船窪乗越 ガスに隠れる針の木岳

テント場は船窪小屋の手前20分、七倉岳中腹の登山道脇にありました。乗越から30分もあれば着くだろうと思いきや、梯子が小刻みに待ち構え一向にはかどりません。行く手を見ると20m程の梯子が見えます。こりゃあダメだとダケカンバの根元にへたり込んでしまいました。ザックを降ろして飴を取り出し、ふと眼前を見ると小さな小屋がある。それがテント場のトイレでした。とりあえずゴールインです。
七倉岳のテント場

ちなみにこのトイレはお勧めです。3方は当たり前に扉や壁で囲まれていますが、中に入った正面はしゃがんだ目線までしか壁がありません。匂いも無い開放的なトイレで思わず長居をしてしまいました。
テント場は5〜6張りと少々小ぶり。、周囲のダケカンバが風除けになっている。雪田脇で虫が多いのが玉にキズ。
圧巻は水場です。テン場から下り5分、登り10分にあるそれは、不動沢側の崖っぷちにあります。補助ロープを辿って、人一人立てるスペースがあるだけ。落ちたらそのまま谷底です。今日のコースで間違いなく一番の難所です。
水場     


2003.7.21
七倉テント場5:00−5:15船窪小屋−5:45天狗の庭−6:35鼻先八丁−7:15岩小屋7:35−7:55唐沢のぞき−9:15七倉荘11:15・・・(タクシー)・・・11:45信濃大町
いつ降り出してもおかしくない曇り空。針の木への縦走はありらめて、早々に下山することにした。蓮華への分岐を右に分け、船窪小屋への道を急ぐ。森林限界を超えた岩稜のハイマツ帯が続く。晴れていたらさぞ雄大な展望が望めるのだろうが、まあこんな日もある。
船窪小屋

天狗の庭を過ぎるころ、ささえきれずに雨が降り出した。潅木の樹林帯も、高度を下げながらいつしか針葉樹の樹林帯に入ってゆく。船窪新道と呼ばれるこの道は、梯子が連続して現れる鼻先八丁が最大の難所。胸突き八丁よりすごいぞの意味か?ブナ立尾根より数段きつい。途中、岩小屋と呼ばれる大岩の陰で雨宿り。途中、初めてギンリョウソウを見た。薄暗い林床にそこだけぼーっと白っぽい様は、まさに幽霊茸の異名を持つだけのことはあると妙に納得した。
天狗の庭

七倉ゲートには遮断機があり、この先は許可書をもった車しか入れない。ゲート脇には歩行者用の通路もあるのだが、私を見てわざわざゲートを開けてくれた。なんだかマラソンランナーがゴールインするとき、順位に関係なくテープを張ってくれるようで思わずペコリと係員に感謝。今回の山行は終わった。
七倉ゲート




高山植物


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七倉荘
烏帽子小屋
船窪小屋